注記: 本セクションは Core Doctrine(進捗効率の原理)を ROI 言語で具体化した“実装バリアント”です。原理そのものは 00/10 を参照。
「探査(サイクル)」と「直線(デリバリー)」を、感覚ではなく進捗効率で切り替える運用原理(実装言語として ROI を用いる)
役割(この文書の目的)
- Why(価値観・原理・境界)を明文化する正典。数値や手順は持たない。
- 判断の背骨は「探査ROIと直線ROIの比較」であり、具体処方や閾値は Model/Framework に委譲する。
0. 目的(何に効くか)
- アジャイル導入で生じる「永遠の探査」「なんちゃってウォーターフォール」「儀式の形骸化」を止血する。
- ウォーターフォールを全否定しない。前提が安定し解像度(ゴール・経路・文脈)が十分に高い領域では、規模に関わらず直線計画(ミニ〜フル含む)が最短最効率になりうることを明文化し、意図して使う。
- 経営のビジョンから個人タスクまで、同一原理で“フラクタル”に判断を揃える(スケールが変わっても原理は不変)。
1. 宣言(Mini‑Manifesto)
- 儀式の遵守より、問題モデルの解像度向上を重視する
- 常時サイクルより、可逆性と被害半径に基づく切替を重視する
- プロセス一律運用より、ROIによる探査↔直線の選択を重視する
- 厳密な数式より、意思決定の透明性と再評価速度を重視する
2. 公理(Axioms)
A0. 目的適合は前段で判定する(Right Problem Gate)。
A1. すべての課題は「問題モデル」で表現でき、解像度は有限で時間と学習で変化し、必ず劣化する。
A2. 探査(情報獲得)と直線(価値実装)はいずれも投資である。各“意思決定単位”ごとに「進捗効率(ゴール近接度の増分/投入リソース)」で比較して配分を決める。実装言語として ROI を用いることができる。
A3. 探査と直線は連続体であり、可逆性(Two‑way door)と被害半径が分水嶺になる。
A4. 局所最適は全体最適を壊しうる。依存とボトルネックを優先的に扱う。
A5. 再評価は事件ではなく制度。トリガーで強制発火させる。
A6. 倫理・規制・安全・ブランドの下限は選択に優越する(Constraint Gateで前段判定)。
A7. フラクタル原理:意思決定単位(Decision Unit, DU)はフラクタルである。課題/サブ課題/仮説(=マイクロ課題)/タスクの各粒度で同一原理を適用する。
3. 原則(Principles)
P1. 次の一手は「進捗効率」で選ぶ(Explore vs Deliver)。採点の実装として ROI 近似(ROI_Explore vs ROI_Deliver)を用いてよい。
P2. 判断の最小語彙は「解像度・可逆性・被害半径」。
P3. 最小阻害単位(Blocking Frontier)で判定する:今の前進を止める最小のDUにだけExploreを当て、他はDeliverで流す。
P4. 直線中の残余不確実性はJDI基準内なら内製処理し、超えたら“仮説(マイクロ課題)”へ昇格してExploreに戻す。
P5. 不可逆×被害大の決定は小さな実験・プロト・リーガル確認などで先に燃やす(段階コミット/可逆化を設計)。
P6. 判断の理由と前提を短く残す(一行ADR。JDIは除く—JDIログで代替)。監査可能性は学習速度である。
P7. 依存の強い中核リスクは前倒しで顕在化させる(Exploreの優先順位)。
P8. 数字は近似でよい。Goodhart対策として数値+短いナラティブを併用する。
P9. ウォーターフォールの適用は「高確度」が前提。実務では確度誤差と変化に備え、可逆化(フラグ/ロールバック)と最小の逸脱検知を併設する。
P10. ポートフォリオ健全性を保つ:非ブロッキングでもCoDが高い項目の飢餓を許さない(aging/SLAで救済)。
4. 立ち位置(是と否)
- 是:意図的な小粒〜フルの直線計画(確度十分な範囲)、JDI実行、限定的な探査、段階コミット、ポートフォリオ視点
- 否:儀式のための儀式、探査の無限延長、不可逆で被害大の一括突貫、指標のための指標
5. 用語(最小の語彙)
- 問題モデル:[T=定義済みタスク群/H=未定義変数=仮説群(=マイクロ課題)/X=未特定要因]の動的集合(意思決定のコンテキスト)
- 意思決定単位(Decision Unit, DU):判断と実行を独立に行える最小の単位(Task/Hypothesis/Sub‑Problem など。JDI適合TaskはDU化せず直行)
- 探査(Explore):不確実性を減らすための調査・実験・検証
- 直線(Deliver):解像した価値を確実に実装(ミニ・ウォーターフォール〜フル・ウォーターフォールを包含)
- 解像度:ゴール・経路・文脈の見通しの鮮明さ
- 可逆性/被害半径:やり直しの容易さ/失敗時の影響範囲
- 目的関数:価値・制約の宣言(具体はモデル/フレームワーク側で定義)
6. 作用点
- 経営:ビジョン→戦略→賭けの配分(探索/活用)に同一原理を適用
- プロダクト/プロジェクト:Discovery/Deliveryの切替を明示、確度が高い領域では意図的に直線計画で通す
- 個人タスク:JDI基準で迷いを切断し、不可逆は小実験で先に潰す
7. 境界
- 特定フレームワークの手順、ツールの使い方、合意形成の技法そのもの
- 厳密なROI算出方法(近似・ヒューリスティックで十分)
8. 期待効果
- 手戻り率と意思決定遅延の低減/リードタイム短縮
- 反復と直線の使い分けの再現性向上(人が変わっても同じ判断)
- 「アジャイルのつもりの痛み」と「ウォーターフォールの硬直」の同時緩和
9. 他思想との関係
- アジャイル:価値観と整合。反復過多のアンチパターンに“直線の復権”で対処。
- ウォーターフォール:確度が十分高い範囲では規模にかかわらず最適たりうる。実務では可逆化と逸脱検知を前提に用いる。
- 近縁理論:探索/活用、EVSI(情報価値)、リアルオプション、OODA、Cynefin、Double Diamond。
影響を受けている思想・フレームワーク等(参考)
- アジャイル開発:Dual-Track Agile(デュアルトラック・アジャイル)
- プロダクトの発見とデリバリーを並行させる考え方。Explore(探査)とDeliver(直線)を意図的に並走させるという点で親和性が高い。ただし本ドクトリンでは、Blocking FrontierとWIP/ボトルネック管理で“常時並走”を避け、投資配分をROIで最適化する。
- 起業論・プロダクト開発:The Lean Startup(リーンスタートアップ)
- 「構築→計測→学習」の高速ループとMVPによる仮説検証。Exploreサイクルの具体実装の一例であり、「問題モデルの解像度を上げる」という思想と重なる。
- アジャイル開発:Agile Manifesto(アジャイルソフトウェア開発宣言)
- 個人・対話・顧客協調・変化対応を重視する価値観。本ドクトリンが「当たり前」を言語化し、思考のコンパスとして機能する点で精神を共有する。
- アジャイル開発:Scrum(スクラム)
- 役割・イベント・作成物を定めた具体的フレームワーク。主としてDeliver運用の具体化に強みがあり、Exploreをスプリント内に取り込む運用とも整合する(ただしExplore/Deliverの配分は本ドクトリンのROI判断で決める)。
- 製品開発フロー理論:Principles of Product Development Flow(Don Reinertsen)
- CoD(遅延コスト)やWIPの経済性に基づく原則。ROIで意思決定する本ドクトリンの理論的背景として強く整合。
- 意思決定理論:Real Options(リアル・オプション)
- 不可逆決定の遅延と選択肢の保持。解像度が上がるまで不可逆を遅らせる方針(段階コミット/可逆化)を裏づける。
- 組織学習論:Exploration vs. Exploitation(知の探索・深化)
- 探索と深化のバランス。本ドクトリンのExplore(探索)/Deliver(深化)の二元論と一致。
- 意思決定理論:Value of Information(EVSI/VOI)
- 情報獲得の経済価値。ExploreのROI(序数)評価の理論的拠り所。
- 戦略論:OODA Loop(ウーダループ)
- 観察→情勢判断→意思決定→実行の反復。本ドクトリンの「分析・評価→ROI判断→実行」ループと親和。
- デザイン思考:Double Diamond(ダブルダイヤモンド)
- 問題空間と解決策空間の発散/収束。Exploreを二層(発見/解決)で捉える補助視点を提供。
- 複雑系・リーダーシップ:Cynefin Framework(サイネフィン)
- 状況類型に応じたアプローチ。課題の「解像度」を見立て、Explore/Deliverの選択を支援する分析レンズ。
- 品質管理・継続的改善:PDCA / Toyota Kata
- 反復による学習と改善。Exploreサイクルの学習駆動と共通のルーツ。
- 生産管理理論:Theory of Constraints(TOC:制約理論)
- 全体は最も弱い制約で決まる。Blocking Frontierとボトルネック優先の考えに適用可能。
- 意思決定理論:Bounded Rationality(限定合理性)
- 人の認知限界により最適ではなく満足解を選ぶ傾向。解像度向上と再評価を制度化する動機づけ。
- リスク・不確実性:Antifragility(アンチフラジャイル)
- 変動で強くなる性質。小さな実験と段階コミットで学習を資産化する設計と合致。
- ビジネス戦略:Wardley Mapping(ウォードリー・マップ)
- 価値連鎖の進化段階の可視化。コンポーネントの成熟度を見立て、どこをExplore/どこをDeliverかの配分判断に有用。
- 開発プラクティス:Shape Up(シェイプアップ)
- シェイピング(輪郭設計)とビルディング(構築)の二段。Explore/Deliverを実務リズムに落とす実践例。
- 古典PM:Progressive Elaboration(段階的詳細化:PMBOK)
- 情報の明確化に伴い計画を段階的に詳細化。「モデルの解像度を継続的に高める」発想で両世界を橋渡し。
注
本ドクトリンは上記に整合・影響を受けるが、いずれにも従属しない。判断の決定因は常に「ROI(Explore vs Deliver)の比較」であり、具体の数値や運用はFrameworkの責務とする。



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